弁護士ブログ

絶対に負けない弁護士は存在するか

 どんな訴訟でも絶対に負けない弁護士は存在するか?
 答えは『ノー』です。

 そんな弁護士、存在しません。
 これだけで記事を終わらせては、あまりにも味気ないので、以下、その理由を記述していきます。

司法試験現役合格の弁護士は絶対に負けない?

 数年前に『報酬は高額であるが、司法試験に現役合格(大学在学時に合格)した弁護士は絶対に負けない弁護士だ』と紹介する記事を見たことがあります。
 んなこたーありません。
 現役合格した弁護士は、司法試験の問題を解くという意味では優秀でしょうが、負けるときは負けます。

 司法試験で問われるのは、法の解釈・適用です(といっても、私は司法試験の過去問をほとんどやったことがないので、よくわかりませんが)。
 たとえば、AさんがBさんに対し、100万円を貸し付けた、という事実を題材にして、法解釈を論じるものです。

 これに対して、実際の訴訟で争われるのは、たいてい、法律が適用される以前の事実認定の問題です。
 AさんがBさんに100万円を貸したが、返してくれません。Bさん、お金を返してください、という訴訟を起こしたとします。
 争いになるのは、たいてい、本当に100万円を貸したのか、といった事実の問題です。
 法の解釈について争いになることはあまりありません。

 また、司法試験では、どのような立証方法が良い立証なのかということも問われません。
 中立公正な裁判官的な視点で、確定した事実を、法的に評価することが問われているのです。

 このように、司法試験で試される能力は、弁護士にとって必要な能力の一部にすぎませんので、司法試験で優秀な成績で合格したからと言って、優秀な弁護士とは限らないいのです。

負けたことがない弁護士は、絶対に負けない弁護士か?

 こういったことを言うと、

「いや、おれは負けたことがない弁護士を知っているぞ。彼こそ、絶対に負けない弁護士だ」

という方がいます。

 でも、負けたことがない弁護士なんてたくさんいます。
 毎年12月半ばに、2000人くらい「負けたことがない」弁護士が誕生します。
 彼らは、今まで代理人として活動をしたことがないので、「負けたことがない」弁護士です。

 こう言うと、

 「屁理屈言いやがって。そんな新人弁護士のことじゃなくて、負けたことがないベテラン弁護士だ」

と反論されるでしょう。

 でも、負けたことがない、ということが、「自身が最後まで担当した民事訴訟で敗訴判決をもらったことがない」という意味なら、私も負けたことはありません(刑事事件で執行猶予付きの懲役刑や罰金刑をもらうことが「負け」になるのであれば、すでに敗北は知っていますが)。
 弁護士登録をして、いくつも事件を取り扱いましたが、少なくとも自分が最後まで担当した民事事件で敗訴判決はもらったことはありません(訂正。破産で受任した事務所事件について、免責を得る前に敗訴判決をもらったことはあります)。
 やろうと思えば、今後20年、30年に渡って「民事訴訟で敗訴判決をもらわない」ことも不可能ではありません。

 じゃあ、私は、どんな事件でも絶対に負けない弁護士なのか?
 違います。負けるときは負けます。

「いや、お前さっき、今後20年、30年に渡って「民事訴訟で敗訴判決をもらわない」ことも不可能ではないって言ったじゃねーか」

と思われるでしょうが、それは、不可能ではないのですが、やらないだけです。
 事件には、「勝ち筋」「負け筋」といった「スジ」があります。
 訴訟に携わるのをやめる、という裏技的な手法を用いなくても、「勝ち筋」の事件だけ厳選していれば、負けることはめったにないでしょう。
 でも、そんなことはしません。「勝ち筋」だろうが「負け筋」だろうが、相談者が困っているのであれば、力になってあげたい、というのが私の職務信条ですので、事件の「スジ」に関わらず受任するつもりです。そのため、いずれ敗訴判決をもらうときが来るでしょう。

絶対に負けないのは不正?

 事件には、どうしても「勝ち筋」「負け筋」がありますが、相手方の主張が完全に正しく、証拠もそろっている「完全な負け筋」事件で勝訴判決をもらうことはできません。
 こういう事件で勝訴判決をもらうとなると、相手がよっぽどのミスをするか、不正な手段を使うしかありません。
 したがって、どんな事件でも絶対に勝つ弁護士は存在しません。

 私の修習時代、ある弁護士が言っていました。
 「勝つべき事件で負けるのは怠慢である。負けるべき事件で勝つのは不正である」
 これは、非常に納得できる言葉です。

次回予告

 でも、弁護士の『負け』とは敗訴判決をもらうことだけでしょうか?
 それは違うと考えます。たとえ勝訴判決をもらっても、負けているということがあるのです。
 そこで、次回は、『負けない弁護士その2』と題して、弁護士にとっての勝ち負けをさらに記述していきます。

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