私が独立するにあたり、色々な先生方から、脚色なしのナマのお話をきくことができました。
そろそろ、時期的に即独を検討する修習生も出てきているでしょうから、これらのお話をまとめてみます。
今回は都心での独立についてまとめてみます。
都心でまともに開業しようとすると、費用がかかる
都心で開業する際のネックは、第一にコストでしょう。
とくに賃料は、開業したての弁護士には重くのしかかります。
私は新宿で開業しましたのでいろいろな物件も見ましたが、新宿駅周辺で坪1万円前後はかなり厳しいです。
ちょっと入るのをためらうような外観の建物、駅から離れた位置にあり、アクセスが悪い物件、周囲にあやしげなお店がある地域など。
賃料が安い物件には、それなりの理由があります。
新宿駅徒歩圏内で、まともな物件を探そうと思えば、やはり、坪2万円くらいは欲しいところです。
東京弁護士会編『弁護士業務マニュアル第3版 近代的な経営と業務改善のために』(2006年2月10日・ぎょうせい・39頁)によれば、「広さは、弁護士の数×10坪+5坪程度が確保できるのが理想的であるといわれている」とされています。
15坪×2万円=30万円
事務所を普通に賃借するのであれば、毎月これくらいの出費は覚悟しなければいけないでしょう(新宿ならの話ですが)。
これに加えて、水道光熱費、通信費、弁護士会費、自分自身の生活費を考えると、がんばって節約して生活しても、月最低50万円以上の売上げが必要になるでしょう。
ベテランの弁護士は、「月50万円? 余裕、余裕」というでしょう。
しかし、それはその人だから可能なのであって、果たして、新人弁護士が定期的にそれだけの収入を得ることが可能かどうか、自問自答してみるべきでしょう。
レンタルオフィスという選択
レンタルオフィスは、新人弁護士の開業場所としては、魅力的な選択になりえるでしょう。
賃料
レンタルオフィスの魅力の一つは、賃料です。
坪当たりの単価は、普通に賃借する場合と比べると高くなります。
しかし、かなり小さい専有面積(必要最小限の執務スペース)だけ賃借しておけば、賃料も抑えられるでしょう。
移転のしやすさ
レンタルオフィスの魅力の二つ目は、事務所移転のしやすさです。
仕事が順調にまわって、手狭になってきたなぁ、と思ったら、簡単に移転することができます。
少し大きめのレンタルオフィスに移っても良いでしょうし、収益が見えてきたなら、普通の賃借物件にうつっても良いでしょう。
これに対して、普通の賃借物件を借りてしまうと、移転することには抵抗感を感じるでしょう。
事務所の改装にお金を使ってしまうと、その投下資本が無駄になるので、すぐに移転することに対して、抵抗感を感じるでしょう。
建物の場所
レンタルオフィスは、駅近の物件が多いです。
駅からのアクセスの良さをお客さんにアピールしたい、という人にとっては魅力的でしょう。
イニシャルコスト
レンタルオフィスは、改装費が不要で、机やいすも、予め設置してあるものが多いです。
しかも、保証金(敷金)が不要だったり、安めに設定してあることが多いです。
そのため、イニシャルコストが低いことも魅力の一つでしょう。
たとえば、東京都弁護士協同組合もレンタルオフィスを設けています。
デメリットとして、坪当たりの賃料が高いことがあげられます。
収益が安定して、事務員を雇用するころには、割高になっていると思われますので、事務所移転は常に頭に入れておく必要があるでしょう。
宅弁という選択肢
事務所賃料を支払うのが厳しい、という場合にはあえて事務所スペースを作らない(自宅兼事務所)という方法も考えられます。
相談者がいたら、自宅に呼んでも良いでしょうが、弁護士会館を貸してもらうのがセキュリティや相談者からの信頼性の観点からも、良いでしょう。
宅弁の最大のメリットは経費削減です。
自分自身の生活費+弁護士会費くらいしか経費はかからないので、国選だけで食っていくのも不可能ではないでしょう。
宅弁のデメリットは、新規顧客開拓の難しさです。
ちゃんとした事務所があるかないか、というのは信頼性にかかわってくるでしょう。
都心の競争の激しさ
都心で、新人弁護士が仕事をとってくるのは、非常に難しいでしょう。
少なくとも、事務所を開いているだけで相談者が来る、という状況はまず考え難いです。
ホームページを開いているだけでお客さんが来るかというと、それも難しいでしょう。
都心では、お金をたくさん持っている事務所が、自身のホームページはいわずもがな、SEO対策やリスティング広告にもお金をかけているので、下手なホームページを作るだけでは対抗することは難しいでしょう。
ウェブ集客一つとっても、きちんと、自分なりの戦略をたてて、真っ向から大事務所に立ち向かうか、そういった事務所が取り扱っていない分野で集客していくかを考えないといけないでしょう。
異業種交流会等に参加して人脈を広げることも考えられますが、都心の異業種交流会には、弁護士が普通に参加しているような時代です。
自分なりのウリを持っていなければ、対抗することは難しいでしょう。
弁護士会からの仕事だけで食っていくのは難しいよね
また、都心で開業して、弁護士会からの仕事だけで食っていくのは、コストを考えると、かなり難しいのではないでしょうか(宅弁や安めのレンタルオフィスを除く)。
法律相談や破産管財人名簿に登録するのにも要件があり、一年目は当番弁護や国選くらいしかもらえないのではないでしょうか。
先輩弁護士から仕事をもらう
そこで、先輩弁護士から仕事をもらうことも考えられます。
委員会等で目立つ活躍をし、先輩弁護士と交流を深め、「何かお手伝いできることがありましたら、ぜひお声掛けください!」とか「お忙しいときに、当番弁護の割当てがされてしまったら、ぜひやらせてください!」などと言っておけば、先輩弁護士も「おうおう、かわいいやつめ」と思って、仕事をくれるかもしれません。
都心の魅力
このようにコストがかかり、競争も激しい都心ですが、都心には都心の魅力があります。
都心部には、一流の企業が集中し、たくさんの人が働いています。
また、千葉や埼玉といった他県からも、地元の弁護士でなく、東京の弁護士に相談したい、という人が来ることもあります。
それだけ、人を引き付ける魅力がある地域なのです。
このような都心には、チャンスも眠っています。
工夫次第では、様々な人から様々な案件を依頼されることになるでしょう。
都心で開業しようと考えている方は、たくさんの先輩弁護士に、成功の秘訣をきいてみて、自分なりの戦略をたてて挑んでみてはいかがでしょうか。
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