司法修習生の就職活動について考える。今回が最終回となります。
これまでは、就職するまでのアドバイスを記述してきましたが、最後に、就職した後のことについてもアドバイスしていきます。
ちなみに、ブラック法律事務所の定義は、なかなか難しいですが、ここでは、被用者に対して、過重な労働負担を強いたり、パワハラを繰り返す事務所を指します(最近は、セクハラしたり、弁護士職務規定違反どころか、違法行為さえさせる事務所もあると聞きますが、さすがにそれは論外です。すぐにやめたほうが良いです)。
なお、この記事は、修習生を採用しようという先生方には、大変不快感をもたらす内容と思われますので、あらかじめ、謝罪いたします。
ブラック法律事務所は存在するか
近年、『ブラック企業』という言葉が流行っています。
しかし、弁護士の業界を知らない人からすると、「弁護士は法の解釈・適用を主な仕事としているんだから、その弁護士が法を破るわけがない。だからブラック事務所なんて存在しないだろう」というイメージがあるでしょう。
じゃあ、実際問題、弁護士は皆、恵まれた労働環境にあるのでしょうか。
答えは『ノー』です。
法曹人口が少なかった時代には、ブラック法律事務所なんてほとんど存在しなかったかもしれません(とはいえ、私は厳しい時代のことしか知りませんので、以下は、修習中に弁護士からきいた話です)。
なぜなら、昔は、ちゃんとした弁護士しか、修習生を採用できなかったためです。雇った弁護士に対し、過重労働を強いれば、すぐに辞めてしまいます(需要が供給を大きく上回っていたため、転職するにしても独立するにしても、ハードルが低かったためです)。また、弁護士の世界は非常に狭いです。どこそこの法律事務所は劣悪な労働環境である、という噂は瞬時に広まります。何も知らない修習生が、ブラック事務所に就職しようとしても、指導担当弁護士が、「あそこはやめておけ」とストップをかけます。
これに対して、現代では、供給が需要を大きく上回っています。
転職どころか、新卒での就職さえ容易ではありません。たとえ過重労働を強いられても、そこでやめてしまえば明日食う飯にも困りますので、簡単に辞めることはできません。また、たとえ過重労働を強いる事務所であっても、就職できないよりはマシ、と思って就職する人間は後を絶ちません。雇う側としても、劣悪な労働環境であっても、次から次へと採用を希望する者が来るので、改善しようとする動機など生まれません。
ブラック事務所が存在する背景
では、このようなブラック事務所が存在する背景はどこにあるのでしょうか。上記のような、弁護士の供給が需要を大きく上回っているというのは大きな要因ですが、このほかに、私は2つ存在すると考えます。
背景1:労働法が適用されない
弁護士だからと言って絶対に労働法上の労働者には当たらない、というわけではありませんが、弁護士の労働者性は、否定されることがほとんどでしょう。労働法は、労働者を保護してくれますが、弁護士は労働法に見捨てられているので、守ってもらえません。
労働法に守られていない弁護士は、働く時間に明確な限界がないのです。
背景2:一人前の弁護士になるように育ててあげようという善意
弁護士の仕事には、職人的側面があります。
書籍を読むだけでは学べず、ほかの弁護士の一挙手一投足から盗み取るような、そんな技術のようなものもあります。こういった技術の継承について、マニュアルはありません。ボス弁の指導を受けながら、じょじょに身に着けていくものです。
ボス弁としては、できるだけ早くその人を育ててあげたいと思うでしょう。
とくに、弁護士になるまで、そして、なってからも苦労された先生の中には、このような苦労が自分を育てた、と自負されている先生もいらっしゃいます。そして、その中には、雇った新人弁護士にも同じような苦労を与えることで育ててあげようと考える方もいます。
また、ボス弁としては、新人弁護士に非常に期待をもっています。期待しているがゆえに、期待に応えられないと失望し、厳しく接します。
こういった行為は、善意から生まれています。
これまで、過重な労働負担を強いたり、パワハラをする事務所は、いかにも極悪非道な事務所のように書いてきましたが、悪意をもってそのような対応をする弁護士は、実は少ないように思われます。
ただ、善意は時に悪意に勝ります。
人間は、悪意をもってした行動については反省しますが、善意をもってした行動には反省する契機がありません。
善意をもってなされている行為は止まりようがありません。
新人弁護士がつぶれてしまい、事務所を退職した時になって、ようやく反省の契機がうまれます。
ダメだと思ったら無理せず退職しよう
もちろん、苦労をしてボス弁の期待に応え、それで一人前の弁護士になる人も多数います。
ただ、中には、心身を病んでしまう人もいます。
私が知っている弁護士の中には、就職してわずか1か月で自律神経失調症になった人もいますし、それ以上に心身を病んでしまった人もいます。
もうダメだと思ったら、それ以上無理せずに退職しましょう。
あなた方が得た資格は、たしかに昔と比べればその希少性は下がりましたが、それでも、非常に有用なものです。
自分の可能性を狭めすぎなければ、食っていくことは十分可能でしょう。
初めまして。事務所の退職を考えている新人です。
先生のブログの記事を読ませていただき、元気が出ました。
ところで、ブラック(と思われる)事務所に入って短期間で退職した場合、
どのように就活すればよいでしょうか?
「すぐに辞める奴」という印象をもたれて就職できないかもしれない、
と考えると、やはり退職するのは不安です。
よろしければ、先生のご意見をお聞かせください。
>悩んでいる者さん
はじめまして。
私なりのアドバイスを書いていたのですが、色々書いているうちに2000字を超えてしまい、コメント欄に書くとかなり見づらくなってしまったので、明日(と言ってもすでに今日ですね)9:00投稿する記事の中で私の意見を述べさせていただきますね。