前回、退職金請求権は財産なので、破産をすると退職金相当額(通常は1/8)を積み立てる必要がある、と解説しました。
しかしながら、退職金だからと言ってすべてが積立の対象となるわけではありません。
破産法を見てみましょう
破産法34条3項では、『次に掲げる財産は、破産財団に属しない』と規定しています(破産財団の属しないというのは、とられない財産、破産者の手元に法律上残してもらえる財産と考えていただければ大丈夫です)。
そして、同項第2号では、『差し押さえることができない財産』をあげています。
つまり、『差し押さえることができない財産』は、法律上、当然に破産者の手元に残してもらえることになります。
差押禁止の退職金がある
退職金の中には、法律上、差押えが禁止されている退職金もあります。
たとえば、以下のようなものです。
・中小企業退職金共済法に基づく退職金(中小企業退職金共済法20条で禁止)
・確定給付企業年金(確定給付企業年金法34条1項本文で禁止)
・確定拠出年金(確定拠出年金法32条1項本文で禁止)
・社会福祉施設職員等退職手当共済法に基づく退職金(同法14条本文で禁止)
これらの退職金は、破産者の財産ではありますが、法律によって保護されているのです。
破産をする際にも、このような退職金相当額を積み立てる必要はないでしょう。
差押禁止の退職金が多額の場合には、自由財産拡張に影響する可能性あり
細かい説明は日をあらためてしますが、破産をする場合でも、多くの裁判所では、総額99万円までの財産を破産者の手元に残してもらえる傾向にあります(自由財産拡張)。
多額の差押禁止の退職金がある場合には、この自由財産拡張に当たって慎重な判断がなされるようです(野村剛司・石川貴康・新宅正人『破産管財実践マニュアル〔第2版〕』2013年7月3日・青林書院・279頁参照)。
たとえば、退職金が1600万円ある人の場合、通常であれば、その8分の1の200万円を積み立てなくてはいけません。しかし、この退職金が差押禁止財産であれば、1円も積み立てる必要はありません。財産であるはずの退職金が満額維持できるのに、さらに99万円も手元に残してもらえるというのは、さすがに残しすぎではないだろうか、ということを考慮してのことでしょう。
つまりは、通常であれば、総額99万円までは手元に残してもらえるけど、差押禁止の退職金が多額の場合には、手元に残してもらえる財産が99万円より少なくなる可能性があるのです。
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