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胎児がいた場合~相続人の確定~

 民法3条1項は、私権の享有は、出生に始まると規定しています。
 なんのことか分からないかもしれませんが、以下の説明をご覧ください。

 人は、権利や義務の主体となれます。
 たとえば、スーパーで大根を買います。
 これによって、大根を買った人は、その大根の所有権を取得します。

 これに対して、たとえばチンパンジーがスーパーのレジに大根を持っていって、代金相当のお金を出しても、大根の所有権を取得することはできません。

 こういった違いはなぜ生じるのでしょうか?
 チンパンジーが人より知能が低いからでしょうか?
 いいえ、それは違います。
 たとえば、生後一ヶ月の赤ん坊と成熟したチンパンジーであれば、チンパンジーのほうが知能が高いでしょう。
(この例えはデータに基づいていないので、間違っていたらすみません)

 答えは、人ではないからです。
 民法では、人のみが権利を有し、義務を負うことができるとされています。

 どんなに知能が高くても、人でなければ権利を有することはできません。
 そして、こういった権利を保有できる能力は、出生、つまり産まれることによって発生する、と民法3条1項は定めているのです。

 では、ここで問題に移りましょう。

ケース1

 Aさんが死亡しました。
 Aさんが死亡した当時、妻のBさんは妊娠していました。
 Aさんが死亡してから2ヶ月経って、Bさんは、Cさん(Aさんの子)を出産しました。
 この場合の相続人は誰か?
 なお、BさんとCさんの他に、相続人になり得るものはいないものとします。

ケース1の解説

 相続は、人の死亡によって開始されます。
 したがって、Aさんが死亡することによって相続が開始されますが、Aさんが死亡した当時、Cさんは胎児でした。
 民法3条1項は、産まれることによって、始めて権利を保有できると定めています。
 そうすると、Aさんが死亡した当時、Cさんはまだ産まれていないので、相続権も有しない、ということになります。
 でも、ちょっと待ってください。
 Cさんは、Aさんが死んだ後に生まれたとはいえ、Aさんの実の子であることに変わりはありません。
 それなのに、たまたま、Aさんが死んだ後に生まれたがために、Aさんの遺産はまったく相続できないとすると、これは不公平ではないでしょうか。

 そこで、民法886条1項は、胎児は、相続については、既に生まれたものとみなす、と規定しています。
 つまりは、胎児も相続人になれるのです。

 したがって、今回のケースでは、相続人は、BさんとCさんが相続人となります。

 もっとも、不幸なことに、胎児が無事産まれる事ができず、死産となる場合もあるでしょう。
 その場合には、民法886条2項は、胎児が死体で生まれたときは、適用しないとしています。
 つまり、胎児は無事産まれることによって相続人となりますが、死産の場合は、最初から相続人でなかったことになります。
 今回のケースでいくと、その場合には、Bさんのみが相続人となります。
(なお、胎児が死体で生まれたときは、その胎児の分について、相続が発生するわけではありません。最初から相続人でなかったという扱いになるのです)

ケース2

 Aさんが死亡しました。
 Aさんが死亡した当時、妻のBさんは妊娠していることに気づいていませんでした。
 そのため、他の相続人であるCさん及びDさんと、Aさんの遺産の分割方法について話し合って決めてしまいました(遺産分割協議)。
 その後になって、BさんはEさん(Aさんの子)を無事出産しました。
 この場合、Bさん、Cさん、Dさんはどうすればよいか?

ケース2の解説

 結論から説明しますと、Eさんを含めて遺産分割協議をやりなおす必要があります。
 Eさんの母親であるBさんが、Eさんを代理して遺産分割協議をしたんだと主張するかもしれませんが、それは判例上認められていません(胎児の代理人に関する規定が存在しないからです)。

 しかも、場合によっては、CさんやDさんは相続人ではなくなることもあります。
 相続人確定の基本で説明したように、Eさんは、Aさんの実の子なので、第一順位の相続人になります。
 CさんやDさんがAさんの子であれば、同じ第一順位の相続人になりますので、Bさん、Cさん、Dさん、Eさんの全員が相続人になります。
 しかし、Cさん、Dさんが、Aさんの親や兄弟姉妹であれば、第二順位または第三順位の相続人になりますので、第一順位であるEさんの登場によって、そもそも相続人ではなくなるからです。

 ちなみに、Eさんが無事生まれた場合、Aさんの遺産分割協議はいつから行えるのでしょうか?
 Eさんは生まれたばかりだと、何かを判断することはできません。
 それでは、Eさんが十分な判断能力を備える成人に達するまで、待たなければいけないのでしょうか。
 そんなことはありません。
 誰かがEさんを代理することによって、遺産分割協議が行えます(つまり、Eさんの代理人が、Eさんのかわりに遺産の分割について話し合うのです)。
 子ども(Eさん)の代理人は、通常、親権者であるBさんになるでしょう。

 ただ、今回のケースのように、相続人に未成年者がいる場合には、遺産の分割方法について注意する必要があります。
 聞きなれない言葉でしょうが、利益相反という問題が生じるからです。
 単純に、BさんがEさんの代理人として何でもできるわけではないのです。
 利益相反の問題は、いずれ解説します。

 以上が胎児がいた場合の相続人の問題です。
 さて、次回は、相続権の剥奪の分野について解説していきます。

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