今回は、代表者の破産費用について解説していきます。
前回は、破産をするにもお金がかかることを解説しました。
ただ、これは何も会社だけではありません。
会社が破産すると、経営者も破産せざるを得ない
会社とその経営者とは、あくまでも別の人格です。
したがって、法理論上は、会社が破産をしても、経営者は破産をしない、ということは十分あり得ます。
しかしながら、たいていの経営者は、会社の債務の保証人になっています。
会社が破産をすると、保証人は、保証債務の支払いを求められます(つまりは、借金残り全額支払えといわれるわけです)。
会社の保証債務となると莫大な金額にのぼることが通常でしょう。
そして、保証債務を払いきれないため、保証人である経営者も破産せざるを得ない、ということになるのが一般的です。
会社の破産費用と代表者の破産費用はそれぞれ支払う必要がある
会社と代表者はあくまで別人格です。
したがって、会社(法人)が破産する費用と代表者(個人)が破産する費用は別にかかってくるのが通常です。
破産をするために必要な費用は、おおざっぱに分けると、(1)破産申立てを依頼する弁護士に支払う報酬と(2)破産管財人や裁判所に支払う費用があります。
(1)に関しては、依頼する弁護士によって様々です。
あくまでも、別々に報酬をいただくという弁護士もいるでしょうし、会社からは報酬をいただくけど、代表者個人からは報酬をもらわない、もしくは少額にする、といった形で調整する弁護士もいるでしょう。
これに対して、(2)は裁判所によって対応がバラバラです。
東京地裁では、法人の予納金と代表者の予納金とを厳格に区別していないように思われます(簡易な事件であれば、法人と代表者あわせて20万円程度ということもあります)。
しかしながら、法人部分と個人部分とで、別々にお金を用意するよう要求される裁判所もまだ多いように思われます(たとえば、法人で50万円、個人で20万円など)。
会社のお金で経営者が破産をすることは難しい
破産をすることになっても、会社にはある程度のお金が残っていることもあります。
これに対して、会社を存続させるために、自身の財産は全部会社に出資してしまった経営者の方は多いです。
そうなると、会社にはまとまったお金があるが、経営者はほとんどお金を持っていない、というパターンがあり得ます。
すると、経営者の方は「会社の金で、俺の費用も全部払う」と考えられるケースがあります。
お気持ちは非常によくわかりますすが、法理論上は、会社と代表者とをいっしょくたに考えることはできません。
会社の債権者と代表者個人の債権者は違います。
会社の財産は、あくまでも、会社の債権者に平等に分配されるべきものです。
たとえば、会社の財産が200万円あったとします。このうち、50万円を代表者の破産費用にあてると、債権者の取り分が減ってしまいます。その分、会社の債権者が害されることになるのです。
そのため、会社の金で代表者が破産をする、ということは原則として認められない、といわざるを得ないでしょう。
これを裏付けるような判例もあります。
大阪地判平成22年8月27日(判例時報2110号103頁)は、個人の破産費用を会社が支払ったというケースですが、破産管財人から弁護士に対する不当利得返還請求が認めらました。
また、この判例を受けてか、厳格に、会社のお金で代表者個人が破産をすることは許さない、というスタンスの裁判所が多いように思われます。
ただ、こういった運用には批判も……
以上は理論上のことです。
しかしながら、会社の債権者と代表者個人の債権者とは、大部分が共通していることが多いです。
また、会社と代表者とが同時に破産手続をすることにより、破産手続上のメリットもあります。
そのため、会社資産を流用して、代表者個人の予納金にあてても、問題視すべきではないという声も強いです。
また、先ほど紹介した裁判例は事例判決であり、一般化することに疑問を抱く声も大きいです。
それを受けてか、会社と代表者個人の予納金について区別するよう指示する裁判所としても、ある程度の調整に応じてくれることもあるようです(たとえば、会社の予納金は50万円だけど、代表者個人の予納金は10万円にまけてくれるなど)。
ただ、このような調整に期待するのは、やはり危険といわざるを得ません。
あらかじめ、破産をする際には、会社の破産費用とは別に代表者個人の破産費用を用意する必要がある、と認識しておくべきでしょう。
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