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評価損なんて発生しません、と保険会社から言われた時の反論(評価損の理論)~交通事故の被害者のために~

 前回解説したように、評価損についてはそもそもこれが認められるかについて争いがあります
 裁判例の中には、「欠陥が認められない」とか「性能や外観の低下がない」といって評価損を否定するものもあります。
 保険会社も、「修理によって自動車の機能はなんら欠陥がないほどに回復している」とか「外観も復元されている」などと主張し、評価損について否定しようとしてくるでしょう。
 これに対し、「いいや、評価損は発生している」と突っ張るだけでは、説得力が弱い、といわざるを得ません。
 そこで、まずは、評価損の発生根拠を理論づけていきましょう。
 以下では、裁判例や、裁判例を分析した書籍(海道野守『裁判例、学説にみる交通事故 物的損害 評価損 第2集‐3』平成14年6月10日・保険毎日新聞社・8ページ)をもとに解説しています。

理論の1修理技術の限界から、自動車の性能や外観等が事故前より低下している

理論の2事故による衝撃のため、車体、各種部品等に負担がかかり、修理した後ただちに不具合が発生することはなくとも、自動車を使用していくと、事故がない場合に比べて不具合が発生しやすくなる

理論の3修理されたといっても、完全に修理されているとはいえない可能性があり、修理時には発見できなかった、隠れた損傷があるかもしれない、という懸念が残ること

理論の4事故にあったということで縁起が悪いとして嫌われる傾向にあること

 理論の1及び2は非常に説得的な理論といえます。
 これに対して、理論の3及び4は主観的ですので、説得力がうすいように思われますが、現実に、事故車は中古車市場において低く評価されているという取引実態をあわせて提示できれば説得的といえるでしょう(※かっこ内は難しい話ですので、読み飛ばしていただいて大丈夫です。損害賠償実務においては、損害を証明する際に、単に主観的な理由を提示するだけでは、損害が発生しているとは認められないのが一般的です。しかし、現実には、中古車市場においては、単に「事故歴」がある、というそれだけの理由で査定が低くされます。こういった、「事故車だから評価は低い」という主観的な評価が取引市場や大多数の人に共有されていることにより、客観的な価値が低下しているといえます。つまりは、単なる主観だけでは説得力が低いものも、大多数の人が認識を共有することで主観的評価が客観性を帯び、説得力も増すのです)。

 評価損の理論はこの程度にし、次回は、評価損が認められるケースについて解説していきます。

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