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交通事故の被害者が破産をする場合の注意点

 交通事故の被害者が破産をする場合、注意が必要です。
 というのも、どのような対応をするかで、手元に残せる財産が変わってくるからです。

破産手続開始決定『後』に交通事故にあった場合

 この場合は、とくに注意点等はありません。
 破産手続においては、

・破産手続開始決定時に破産者が有していた財産

が持っていかれることになります。
 破産手続開始決定後に得た財産(これを「新得財産」といいます。)は、破産管財人による処分の対象にはなりません。
 交通事故の被害にあった場合、加害者に対しては、慰謝料等を請求できますが、このような慰謝料は新得財産にあたるので、持って行かれません。

破産手続開始決定『前』に交通事故にあった場合

 この場合は、慰謝料の扱いについて、とくに注意が必要です。
 交通事故の被害者は、加害者に対して、慰謝料などを請求できます。
 でも、このような加害者に対して、「お金を払ってください」という『権利』(請求権)は財産になります。
 交通事故の被害者が破産をすると、このような請求権は、理論上は原則として破産管財人にとられてしまうことになるのです。

 ただ、これはあくまでも理論上のことですので、処理の方法は請求権の内容によってかなり変わってきます。
 ここでは、賠償項目をいくつかあげ、それぞれの処理についてみていきましょう。

物損

 物損に関する部分は、原則として、破産管財人がすべてもっていってしまいます。
 なぜなら、破産者の自動車は、破産をすると、原則としてとられてしまうものです。
 物損部分は、いわばこの自動車が姿を変えたものですので、破産管財人がもっていってしまうでしょう。

治療費

 治療費は、加害者が任意保険に加入していれば、加害者の保険会社から医療機関(病院など)に対して、直接治療費が払われるのが通常です。
 理論上、破産管財人は、

・破産者に対して:治療費は自由財産や自分の給料などでまかなってください。払えない? 治療を受けられない? いや、そういうことは知らないです。
・加害者に対して:治療費相当額は破産管財人に払ってください。

ということもできるでしょうが、さすがにそんな常識を疑う行動をとる破産管財人はいないでしょう。
 治療は生命及び健康の維持回復という被害者の生存を保障し、再起更正に不可欠な物であって、自由財産ないし自由財産拡張の対象になる(全国倒産処理弁護士ネットワーク編『破産実務Q&A200問』・平成24年12月15日・株式会社きんざい・91頁)と考えるべきです。
 最も慎重を期すのであれば、治療が終わった(完治もしくは症状固定した)段階で破産の申立てをするということも考えられますが、そこまでする必要はないように思われます。

休業損害

 休業損害は、給与の代替的な性格を有しています。
 給与は通常、破産をしてもとられるものではありませんので、自由財産拡張の対象になるでしょう(野村剛司・石川貴康・新宅正人『破産管財実践マニュアル〔第2版〕』2013年7月3日・青林書院・299頁参照)。

逸失利益

 逸失利益も、休業損害と同じく給与の代替的性格を有しています。
 そのため、休業損害と同じく、自由財産拡張の対象になるでしょう(野村剛司・石川貴康・新宅正人『破産管財実践マニュアル〔第2版〕』2013年7月3日・青林書院・299頁参照)。

慰謝料

 慰謝料の扱いは、非常に重要です。
 慰謝料は、法律用語で『行使上の一身専属権』と呼ばれています。
 簡単に説明しますと、慰謝料請求権を行使するか否かは、被害者の自由な判断に委ねられている、というものです。
 そのため、交通事故の被害者としては、「慰謝料はいりません」ということもできますし、破産管財人としては、「慰謝料請求権を行使しろ」と強制することは出来ません。

 『一身専属権』は、差押えが禁止されています。
 つまり、本来的自由財産になるので、破産管財人は手を出すことができない財産になります。

 ただ、慰謝料請求権は、『行使』するかどどうかが被害者の自由な意思に委ねられているに過ぎません。
 被害者が、「慰謝料を請求します」と言って、『慰謝料の金額が確定』すれば、それは普通の財産となんら変わりないものになってしまいます。

 簡単に説明すると、慰謝料は

・示談をする前:破産をしてもとられない
・示談をした後:破産管財人にとられてしまう

ことになります。

 もちろん、絶対に破産者の手元に残せないというわけではなく、自由財産拡張で残せる余地はあると思われます。
 ただ、交通事故における慰謝料がかなり高額な金額になる可能性があること(100万円を超えることもざらです)を考慮すると、自由財産拡張に期待しすぎるのは危険なように思われます。

 むしろ、逸失利益と慰謝料とをあわせると、数百万円~場合によっては数千万円になる可能性があることを考慮すると、破産管財人は、「ちょっと破産者の手元に残しすぎかな」と判断をして、慰謝料は破産財団としてもっていく可能性も十分考えられます。

 そのため、慰謝料に関しては、破産手続が終了するまで金額を確定しないのが無難なように思われます。

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