交通事故の被害者本人の通院交通費は、当然ながら認められます(ただし、公共交通機関が原則であり、タクシーは例外的です)。
しかし、事故や受傷の程度によっては、夫や妻といった配偶者はもちろん、親や兄弟姉妹などの近親者が病院に駆けつけるでしょう。
近くに住んでいれば良いのですが、県外や場合によっては国外に住んでいる近親者が駆けつけることもあるでしょう。そうすると、電車や飛行機などの費用もばかにはなりません。
こういった近親者の交通費は賠償してもらえないのでしょうか。
ケガの程度などによっては認められる
被害者の娘がモスクワから急遽帰国して付添看護をしたというケースでは、旅費が認められました(最判昭和49年4月25日・民集28巻3号447ページ)。
このケースで、最高裁は次のように論じています。
「近親者が看護等のため被害者のの許に赴くことが、被害者の傷害の程度、当該近親者が看護にあたる必要性等の諸般の事情からみて社会通念上相当であり、被害者が近親者に対し右旅費を返還又は償還すべきものと認められるときには……普通運賃の限度内においては」旅費が認められるとしました。
つまり、
(1)ケガの程度
(2)付添看護をした場合は、その必要性
(3)その他の事情
を考慮して旅費を賠償すべきかが判断される。
ただし、賠償されるのは、
(4)普通運賃の限度内
ということになります。
付添人交通費
入院付添費の項目で説明したように、そもそも、入院付添費自体が原則として認められないので注意してください。
ただ、付添看護の必要が認められた場合には、付添人の交通費も認められやすいでしょう。
たとえば、判例(札幌高判平成13年5月30日・交通民集34巻6号1786ページ)では、女子小学生が頭蓋骨骨折、急性硬膜下血種等で1840日入院したケースで、父親、母親、祖母、叔母のそれぞれの交通費を認めました。
見舞いのための交通費
付添いのための通院より、見舞いのための通院のほうが実際には多いでしょう。
ケガの程度や被害者の年齢、被害者と近親者との関係に応じて、通院交通費が認められることがあります。
たとえば、事故の影響で記憶力が低下した高校3年生の子どものため、両親が高速を使って見舞いにおとずれた事案(東京地判平成10年1月30日・交通民集31巻1号148ページ)では、両親が見舞いに病院を訪れることは心情として理解できるとして40日分の交通費を認めました。
また、右大腿骨骨幹部骨折等により225日間入院した、29歳の医大生の事案(東京地判平成12年10月4日・交通民集33巻5号1603ページ)では、父母については4往復分の、妹については2往復分の航空券代とタクシー代が認められました。
宿泊費
被害者の状況や近親者の住所によっては、毎回、交通費を支給するのでなく、宿泊したほうが、お金の面で合理的な場合があります。
この場合は、
(1)ケガの部位や程度
(2)被害者の年齢等
(3)被害者と近親者との関係
(4)見舞いや付添いの必要性
(5)入院地と近親者の住所との距離
などから相当といえるか判断されることになるでしょう。
それでは、具体的な事案も見ていきましょう。
入院地:富山、住所地:大阪の事案(大阪地判平成3年9月12日・交通民集24巻5号1035ページ)は、入院付添費700日分が認められた事案でした。この事案では、被害者が危篤状態を脱するまでの10日間の家族4人分の滞在費が認められました。
宿泊費は交通費と比べると高額になりやすく、また、必要性も厳しく検討される傾向にあります。
家族がケガをした以上は、付き添うのは当然だ、というお気持ちは非常に分かるのですが、だからといって宿泊費は当然に賠償されるものではありませんので注意してください。
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