破産と離婚の関係に関する解説の第2回は、慰謝料について解説していきます。
離婚をすると当然に慰謝料がもらえるわけではありませんが、不貞行為や暴力などが原因で離婚に至った場合には慰謝料請求権が生じえます。
このような離婚と慰謝料の関係について解説していきます。
1.慰謝料を請求する側が破産をする場合
破産をすると、破産者が持っている財産はすべてとられてしまうのが原則です。
これは、現金や自動車といった物だけではありません。
たとえば、お金を借りている人に、お金を返してくださいと請求できるような『権利』も財産として扱われます。
慰謝料請求権もこのような、お金を払ってくださいという権利であることは否定できません。
すると、慰謝料請求権も、破産をするととられてしまうかに思われます。
しかしながら、交通事故の被害者が破産をする場合の注意点で解説したように、慰謝料請求権は『行使上の一身専属権』と呼ばれる権利です。
つまり、慰謝料請求権を行使するかどうかは、法律上、権利者のみが決めることができるとされています。慰謝料請求権を行使するよう、誰かが強制することはできません。それがたとえ破産管財人であったとしてもです。
慰謝料請求権のような一身専属権は、破産をしてもとられないのが原則です。
しかしながら、慰謝料は、『行使上の』一身専属権です。慰謝料請求権を『行使』するかどうかだけが、権利者の一身に委ねられているに過ぎません。
つまりは、慰謝料請求権は、『行使』してしまえば、一身専属権という性質を失ってしまうのです。
具体的には、『慰謝料の金額が確定』するかどうかがポイントとされていますので、この点に注意すべきです。
ポイント
・破産をする前に、『慰謝料の金額を確定』してしまう→破産管財人に慰謝料を持っていかれる
・破産をした後に、慰謝料を行使する→破産管財人に慰謝料を持っていかれない
2.慰謝料を請求される側が破産をする場合
慰謝料の支払義務も、破産によって免除の対象になる義務の一つです(これを破産債権といいます)。
もっとも、すべての慰謝料の支払義務が免除されてしまうわけではありません。
非免責債権といって、破産をしても例外的に免除されない可能性があります。
例外1破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権
破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権は非免責債権となるので、破産しても免除されません(破産法253条1項但書2号)。
悪意というのは、「害意」を意味するとされています。
たとえば、配偶者が不貞行為をした場合には、配偶者とその浮気相手は、損害賠償義務を負う可能性があります。
このような損害賠償義務は原則として免除の対象になってしまいますが、たとえば、婚姻関係を破壊してやろうと企んで不貞行為に及んだような場合には、「悪意で加えた不法行為」と評価され、免除されない可能性があります。
例外2破産者が故意または重過失により、他人の生命または身体を害したことに基づく損害賠償請求権
破産者が故意または重過失により、他人の生命または身体を害したことに基づく損害賠償請求権は、破産をしても免除されません(破産法253条1項但書3号)。
たとえば、DVが行われたような場合には、DVにより被った被害の損害賠償請求権(慰謝料含む)は、一般的に破産をしても免除されないでしょう。
例外3破産者が知りながら債権者名簿に記載しなかった請求権
破産者が知りながら債権者名簿に記載しなかった請求権は、破産をしても免除されません(破産法253条1項但書6号)。
たとえば、慰謝料請求をした際に、「破産をしたから支払義務はないはずだ!」と反論された場合に、この規定が使える可能性があります。
破産者がわざと債権者名簿にのせなかった場合だけでなく、過失(ミス)で債権者名簿にのせなかったような場合にも、本条が適用され、免除されなくなります。
慰謝料請求をした際に、破産をしているなんて知らなかった! という場合には、本条の適用余地を検討すべきでしょう。
もっとも、慰謝料請求をする人が、破産をするということを知っていた場合には、この規定は適用されませんので注意が必要です(この規定は、破産債権者に、破産手続に参加する権利を保障するための規定にすぎないからです)。
まとめ
慰謝料の支払義務→破産によって原則免除される
例外1.破産者が悪意で加えた不法行為にあたる場合
例外2.破産者が故意または重過失により、他人の生命または身体を害した場合
例外3.破産者が知りながら債権者名簿に記載しなかった請求権
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