借金の支払いができなくなってしまったら、自己破産や民事再生などを検討する必要があります。
しかしながら、自己破産をすると、お持ちの財産は原則として、すべてとられてしまいます。
また、相続財産があればそれもとられてしまいます。
遺産分割協議→自己破産は危険!
自己破産をする際に見逃しがちな財産1~相続財産~で解説したように、破産をする直前に不動産の名義を変更して(つまりは自分の財産ではなくしてしまってから)、自己破産をするのはかなり危険です。
破産管財人から「そういうのは、無効です」と効力を否定されたり(否認権行使)、裁判所からも「そういったずるいことをする人の借金は免除しません」とされたり(免責不許可)、最悪の可能性としては、詐欺破産罪として逮捕される危険性があります。
でも、相続放棄なら……
このように、いったん相続した財産について、『遺産分割協議』で移転させるのは非常に危険ですが、『相続放棄』なら話は別です。
判例(債権者取消権に関するものですが、破産法上の否認権行使にも射程が及ぶと考えられます)は、債権者を害するような(つまりは財産を目減りさせるような)行為について、
・遺産分割協議→取り消すことができる(最判平成11年6月11日・民集53巻5号898頁)
・相続放棄→取り消すことができない(最判昭和49年9月20日・民集28巻6号1202頁)
としました。
つまり、学説の対立はありますが、
・遺産分割協議ではダメ
・相続放棄ならセーフ
と判定したのです。
なんで相続放棄ならセーフで遺産分割協議はアウトなの?
学説の対立もあるので、詳細な理由については、池田恒男「69 遺産分割協議と債権者取消権」久貴忠彦・米倉明・水野紀子編『別冊ジュリスト162号 家族法判例百選[第六版]』(有斐閣・2002年5月20日・140頁)をご覧いただきたいところですが、すごーく簡単に説明すると、
・遺産分割協議:いったん相続して自分の財産となったものを移転するので、取消しの対象になる
・相続放棄:相続放棄をすると、はじめから相続人にならなかった(つまり、もともとそんな財産なんて相続しなかった)とみなされる(民法939条)から、取り消されない
のです。
相続放棄をするなら破産の前に!
破産法との関係で、相続放棄と破産は順番が非常に重要です。
・相続放棄をする→破産手続開始決定が出る
このパターンであれば問題ありませんが、
・破産手続開始決定が出る→相続放棄をする
このパターンだと、アウトです。
破産法238条1項後文で、破産手続開始決定後にした相続放棄は、限定承認と同じ効力しかもたない、とされています。つまり、相続財産は処分対象になります。
ちなみに、破産法238条2項では、破産管財人が相続放棄の効力を認めることができる、と規定されていますが、これに期待してはいけません。この条文は、たまたま破産と相続放棄の順番が逆になってしまった人を救済する規定ではありません。ただ単に、限定承認の手続が煩雑なので、破産管財人の労力を考え、相続財産よりも相続借金のほうが明らかに多い場合(つまりは相続しても財産が増えないような場合)に、相続放棄を認めているにすぎません。
まとめ
借金の支払いが厳しい状況で相続をしたら、まずは相続放棄を検討するべきでしょう。
ただし、破産と相続放棄の順番にも注意すべきです。
ちなみに、相続放棄は、家庭裁判所で申述する必要があります。自分で「相続放棄をする!」と宣言するだけでは効果がありませんので、ご注意を。
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